HELLSING08
ベル(少):う…うえッ…えぐッ……えぐッ…。ヒック…ヒック、
祖父:どしたい。なんで泣いてんだ、おめぇ。
ベル(少):がッ…学校でみんながッ。お前は人殺しの子供だって…ッ。
お前んちは金で戦争に行く殺し屋だってッ。
祖父:そうだよ。本当のこった。ウチは8代前からずーーっと傭兵稼業だ。
じいちゃんの じいちゃんの じいちゃんの じいちゃんからだ。
ち
お前の親父だってコロンビアでおっ死んじまったんじゃねえか。
お前の出産の費用出すためにキバリ過ぎたんだよ。
何だおめぇ、まだ知らなかったのか。
ベル(少):お…おじいちゃんも、おじいちゃんも人を殺したの…!?
祖父:あー、殺したよ。すげえたくさん。
ベル(少):なッ、なんでだよッ! なんで人を殺したりするんだよッ!?
祖父:傭兵が何のために? 金だよ。俺達が戦った連中の目的は、
主義や主張、体制の打倒や体制の維持のため。
侵略のため。防衛のため。故郷のため。家族のため。女のため。
麻薬のため。食いもんのため。色々だ。
俺達はそういうのわかんねえ。大事な事だっていうのはわかる。
でもそういうの、別に銃を取らんでも何とかなるんじゃねえの、と思う。
つうか銃を取る事に、そういう意味なんか必要なのか?
二束三文のはした金で充分じゃねえのか、と思う。
逆に言えば、だ。二束三文のクソ駄賃が、俺達にとっては命を賭けるのに足りてしまうんだ。
二束三文の金で世界中の鉄火場あっちゃこっちゃ出向いてって、
二束三文でブッ殺したり ブッ殺されたり。
しかも誰に言われた訳でもなく好きこのんでだ。
戦場での二束三文の方が、自分の命や他人の命より重い。
ウチの家系は割とそーいう、ホントに人間のクズの家系なんだ。
悪いが学校でいじめられても仕方ないかもなあー。
いやなに、お前もそのうち分かる時が来るんじゃないかな。
なにせホラ…お前は俺達の孫だ。
N:ヘルシング本部。回想を終えたベルナドットは誰にともなく呟いた。
ベルナドット:…ホント、その通りだったよ。いやはや…。
■
SS曹長:間もなくヘルシング本部上空です。
ゾーリン:よし、総員戦闘準備。
ぶいわんかい
SS曹長:旗艦からの支援攻撃きます!! V1 改 です。
ゾーリン:デウス・ウキス・マキーナの露払いか。ヘルシングに腹いっぱい喰わせろ!!
N:24基のV1改ロケットがゾーリン・ブリッツ支隊の艦の横を抜け、ヘルシング本部に向け飛行していく。
が、突如ロケットが次々と爆発する。
ゾーリン:…な…何事だ!! 何だ!? 何をされている!?
SS曹長:狙撃されています!! ヘルシング本部から射撃を受けています!!
ゾーリン:…奴だ。
SS曹長:V1改 全基撃墜!! 馬鹿な…24基の同時攻撃だぞ。
サーチライト
ゾーリン:ちィィッ…!! 探照灯!! ヘルシング本部を照らせ!!
SS曹長:お止めください!! 狙い撃ちされます!!
ゾーリン:構わぬ!! あの女にはもう見えている!!
N:艦がヘルシング本部 屋上を照らす。そこにはセラスが立っていた。
その背に、新たに用意された巨大な武器を携えて。ベルナドットよりセラスに通信が入る。
ベルナドット:全基撃墜だ嬢ちゃん。新装備の調子は上々だな嬢ちゃん。
カノン
「ハルコンネンU」 30ミリ セミオート「砲」
最大射程4000メートル!! 総重量345kg。
こりゃ馬鹿と冗談が総動員だ、嬢ちゃん。
★セラス01:ベルナドットさんッ。嬢ちゃんって言うの、やめてくれませんかッ。
私にはセラスって名前が…、
ベルナドット:ハッハッハッ! そいつあ悪かった!! 「嬢ちゃん」!!
…なあ。ロンドンが見えるか、嬢ちゃん。
★セラス02:…見えます。
ベルナドット:ピカデリーもソーホーも、コヴェエントガーデンも灰になっちまった。
あのロンドンがよ、今じゃ地獄と同意語だ。俺はロンドンなんて嫌いだ。
古くせえ街だと思ったよ。俺にゃ全然似合わねえ町だと思ったよ。
でもな、俺達が週末にくり出して行ってたキャバレーは、ビールが冷えててうまかったし。
バーテンの兄ちゃんもくっだらねえ下ネタが大好きなバカな奴でさ。
売春宿の女郎たちは、金に汚くてブスも多かったけど。でもな、みんな優しかったし、
みんな可哀想な目の奴ばっかりでよ。ヴァービー通りの定食屋のバアさんは、
頼んでもねーのに、俺が行くとフィッシュ&チップスをいつも勝手につけやがる。
俺が外人だからっつって。名物だからっつって、毎度毎度。
俺、アレ油っこ過ぎて食えないっつってんのに。バアさんに悪いから、毎度無理に食うのがつらくってさ。
俺はロンドンなんか嫌いだ。でもな、あいつらは、バーテンや女郎達やバアさんは、
この闘争とやらと何の関係もねえ。戦争も、ナチも、吸血鬼も、何も関係がねえ。
少佐って奴も、第13課ってのも、最後の大隊も 、俺達ヘルシングも「知ったこっちゃなかった」。
でもあいつらは今、死体になって死体を食ってる。それが俺には…勘弁ならねえ。
「セラス」! 仇討ちをしようぜ。やっちまおう。あいつらやっちまおうぜ。
★セラス03:…うん。わかってる。わかってるよ隊長。わかってる!!
N:セラスが「ハルコンネンU」の銃口を艦に向ける。
フライングドレッドノート
ベルナドット:目標!! 敵 空中戦艦 !! 砲打撃戦用意!! てぇ!!
SS曹長:第7ブロック被弾!! 第3ブロック被弾!! 第4ブロック火災発生!! 第2兵員準備室で爆発!!
後部 第4・第5エンジン部 崩落!! 飛行能力32%低下!!
ちゅ…中尉!! 艦を…ッ、艦を後退させなければ…ッ、
ゾーリン:もう遅い!! あの火砲の前では、こんな船の軽金装甲など紙風船だ。このデカブツでは逃げられん。
下降だ!! 着陸させろ!! 強行着陸だ!! ヘルシング本部に…いや!!
奴にぶつけろ!! セラス・ヴィクトリアに!!
ベルナドット:いかん!! 逃げろ!! セラス!!
てきだんとう
N:セラスは更に新たに用意された装備、広域立体制圧用 爆裂焼夷 擲弾筒 「ウラディーミル」を構えた。
★セラス04:らああああ!!
N:「ウラディーミル」の弾頭が、ゾーリンの乗る艦に命中し爆発炎上する。
SS曹長:制御不能!! 制御不能!! お…おちます!
傭兵:おおッ! やった…やったぞ!! タリホーッ! タリホーッ!!
★セラス05:まだです!!
レディス
ベルナドット:そうだ、まだだ淑女共。目をあけろ、来るぞ!
N:燃えさかりながら墜落する艦よりも速く、ゾーリンと吸血鬼兵 数十名は既に地上へと降り立っていた。
副長:おちる寸前に脱出したんだ。
傭兵:そんなバカな!! 何もつけずにか!!
ベルナドット:そうだ、奴らは人間じゃない。化物だぜ!!
ギース
来るぞ『がちょう共』!! 仕事の時間だ!! ロックンロール!!
★セラス06:隊長!!
ベルナドット:嬢ちゃんは下がって補給だ。装備変更!! 急げ!!
ギース
来るぞ、前戯は終わりだ。今度は俺達の番だ。見てろよ嬢ちゃん。傭兵の戦を見せてやる。
SS曹長:残存兵員42名!! あの弾頭ただの代物ではありませぬ。
半数以上と重火器の全てを 失逸 いたしました!! されど我ら意気軒昴!!
ご命令を!! ゾーリン・ブリッツ中尉!!
みなごろ
ゾーリン:充分だ。奴らを 鏖殺しにするには充分だ!! 殺す! 全員殺す!!
N:ゾーリンが高々と大鎌を掲げる。と同時に吸血鬼兵らがヘルシング本部に向かって駆け出した。
ベルナドット:嬢ちゃん、吸血鬼ってのはアレだろ。人間離れした反射神経や運動能力。
獣のように殺気を感じ、怖ろしい馬鹿力を持つ。人間の殺気を感じ動きを読み、
心を盗んで鋭く動く。銃撃や剣撃をたやすく避け、相手を襲い血を貪るんだろ?
…じゃあ、こういうのはどうだい。
N:先頭を走っていた吸血鬼が、突如 爆死する。
SS曹長:地雷源!! 地雷源だ!!
ベルナドット:止まったぞ、やれ。
N:地雷源が一斉に爆発し、吸血鬼兵らを吹き飛ばしていく。
ベルナドット:ビンゴ!! 人間様をナメるとこーなる。
★セラス07:こ…こんな仕掛けを…ッ!!
ベルナドット:「しかけ」? バカが突っ込んでくるから悪いんだ 真正面から。
殺気も 心も 動きも無い発動装置。そして点ではなく避けられない面攻撃。
法儀礼済みボールベアリングのクレイモア地雷列60個の同時点火。
避けられるモンなら避けてみろっつうの。俺たちゃケンカ弱いからよ。
おっかねえから正々堂々とケンカなんかしねえぜ、軍人さんたちよう!!
3階!! グレネード斉射!! 連続発射で火線を張れ!!
連中に頭を上げさせるな!! 面だ!! 徹底的に面で攻撃しろ!!
ライフル分隊は分隊火力の全てを、第一目標の目標周辺ごと集中弾幕射撃!!
副長:隊長!! 連中の進撃が止まりました。小丘の斜面に伏してピクリとも動きません。
ベルナドット:何かたくらんでやがるな。だが今はそれでいい。近づけさせなければ俺達の勝ちだ。
俺達の「はじめてのお留守番」だ。駄賃目当てのな。
怖いオッサン共を家に入れたら俺達の負けだ。俺達ゃケンカ弱いからよ。
副長:奴ら、退きますかね。
ベルナドット:普通ならな。普通の人間なら退く。間違いなく、とっくに。
だが、奴らは人間じゃねえ、バケモンだ。
傭兵:うわああああ!! 何だ…何だあれは!!
副長:何だ!! 何事だ!!
N:ヘルシング本部の窓から見える夜の空を、巨大なゾーリンの姿が阻んでいた。
ベルナドット:!! おい…何の冗談だ、おい…。
N:ゾーリンは傭兵らの姿を確認すると、大鎌を振り上げ 振り下ろした。
ヘルシング本部が真っ二つに斬り裂かれる。
ベルナドット:こッ…こんな、こんな馬鹿な事があるかぁ!!
★セラスM08:嘘だ。これは嘘だ!! 何だかわからないッ、だけど…ッ。
私の中の「何かが」そう教えてる。…幻!!? 幻覚だ!!
傭兵:うわああああ!! 助け…助けてくれェ!! ば…化物だああ。
足がッ、俺の足がッ!! 助けてくれェ! うッ、動けねぇえッ!!
★セラス09:しっ…しっかりッ、しっかりしてくださいッ。幻ですッ、幻覚だったんですッ!!
副長:腕がッ、俺の…俺の腕がッ!!
★セラス10:く…ッ、
N:セラスは意を決し、遥か先を見据えライフルの引き金を引いた。
銃弾は、幻覚の主であるゾーリンの頬を掠める。次の瞬間、巨大なゾーリンの姿が崩れ落ち、
ヘルシング本部を包んでいた幻が消え去っていった。
副長:な…何だ、今のは!!
★セラス11:しっかりしてください!! 幻ですッ、幻術か何かですッ!!
ベルナドット:幻術ゥ!? 幻だと!! あれが!?
ゾーリン:その通り、幻だ!! よくぞ見破った、
セラス・ヴィクトリア!! だが! だが、もう遅い!!
N:吸血鬼兵の一人が、ヘルシング本部の窓をつき破り 飛び込んでくる。
傭兵達が次々と殺されていく。が、セラスが向かってくる吸血鬼の口に、
ライフルを突っ込み撃ち抜いた。玄関から激しい物音が響いてくる。
ベルナドット:こいつはヤベェ、正面が破られた。
ゾーリン:カハッカハッカハッ!!
さあー!! もう許さない!! さあー!! もう助からない!!
さあー!! さっさと死んじまえ!!
ベルナドット:兵隊を集めろ。分散してる連中も遅滞戦闘をしながら退かせろ。
残った兵士は、ここに全部集めろ!!
弾薬と手榴弾をありったけ持て。…嬢ちゃん!!
★セラス12:はッ、はいッ!!
ベルナドット:俺達は、この 館棟 に立てこもる。
俺達がディフェンスで、嬢ちゃんがオフェンスだ。俺達がここを守る。
その間に嬢ちゃんが、奴らをやっつける!!
ヤーッ
★セラス13:やッ、了解!!
ベルナドット:嬢ちゃんが俺達の切り札だ。やっつけろ!!
俺達が奴らに細切れにされる前にだ。
副長:頼んだぜ。
★セラス14:はッ、はいッ!!
ベルナドット:あ、一つ大事なこと忘れてた。
★セラス15:?
ベルナドット:セラース!!
★セラス16:はッ、はいッ!!
ベルナドット:目ェつむれーッ!!
★セラス17:!!
N:反射的に目を瞑るセラス。だが顔前に気配を感じ取り、目を開ける。
そこには、セラスに唇を重ねようとしているベルナドットの顔があった。
★セラス18:ぎゃーッ!! ぎいやーーッ!!
ベルナドット:ちッ、
★セラス19:なッ、な…何するんですかッ!!
副長:ああッ、ズルイッ 。
傭兵:隊長ずるいッ、
ベルナドット:よーし、行くぞお前ら。急げ!!
副長:職権乱用だァ!
傭兵:ずっけー!! だったら俺もー、
副長:俺もー、
★セラス20:バカーッ!!
ベルナドット:へへへ…セラス嬢ちゃん。死ぬんじゃねえぞ。死ぬなよな。
★セラス21:…隊長も!! みなさんも!!
ベルナドット:よおし!! 征け!!
い
★セラス22:征きます!!
N:セラスが走り去る。傭兵達は、セラスの後ろ姿を見送っている。
副長:いい娘ですよね。
ベルナドット:ああ、ホント。バカみたいにいい娘だ。
あんな娘 死なせたら男の名折れだ。地獄行きだぜ。なあ? おい。
副長:ですな。
傭兵:ほんと、まじで。
ベルナドット:じゃあ悪いが、お前らの命をくれ。
ここがお前らの命の捨て場所だ。持ち場を 墓穴 と思えよ。
副長:隊長ー、あのねー。ここは普通はアレですよ。逃げたい奴は逃げろ!!とか、
部下は脱出させて自分だけ残るとか、そーいうのですよ。
ベルナドット:何を言ってやがる。お前ら小銭目当てに、
好き好んで戦争屋になった親不孝共じゃねぇか。
ファックファック
さてと、死のうぜ犬ども。畜生 畜生って言いながら死のうぜ。
腹に銃弾くらってよ、のたうち回って。
副長:へへへ…そりゃそうだ。ちげえねぇ、まったくもって ちげえねえや。
N:吸血鬼達の侵攻は、傭兵達の反撃も虚しく最深部へと進んでいく。
ベルナドットの元に内線が入る。『退路を絶たれた。合流は不可能』と。
ベルナドット:バカ抜かせ!! 這ってでも来い!! こっちは円卓室で立てこもる準備中だ。
ここが一番頑丈だからな。ここなら暫く凌げる。そこじゃ簡単に死んじまうぞ、
諦めんな!! バリ開けて待ってんだ!! どうにかして来い!!
…くッ…馬鹿野郎!! ……畜生、そうかよ糞ったれ。
わかったよ、死んじまえ。じゃあな、楽しかったぞ。
…バリケードを閉めろ!! このデカい円卓も引っくり返してバリにしろ。
何でも構わんから積み上げろ。
副長:隊長、B棟の連中は…?
ベルナドット:駄目だった。
副長:そうですか、残念です。
傭兵:もう駄目だ!! 俺達はもうおしまいだ!!
副長:うるせえ!! 馬鹿野郎!!
傭兵:もう化物の相手なんか嫌だ!! もう限界だ!
インテグラもアーカードも俺達を見捨てやがった!!
ベルナドット:何言ってんだ、おめえは。どこにも出れねぇし、どこにも行かさねぇぞ。
傭兵:俺は帰る!! もう嫌だ!!
ベルナドット:どこに行く気だ? お前の墓穴はここだぞ。墓標は、この馬鹿でかい館。
墓守りは、あのおっかねえインテグラ嬢だ。碑文にはこうだ。
「すごく格好良い傭兵達が悪いナチスをやっつけて、すごく格好良くここに眠る」
だが、お前のせいで変わっちまう。お前がメソメソしてるから
「ヘタレの根性無し。女の様に泣きながら、虫の様にくたばる」
冗談じゃねえ、お前には無理矢理でもカッチョ良く死んでもらうぞ!!
好き好んで金貰って、好き好んで戦争やってんだろが!!
おい兵隊!! だったら好き好んで戦って死ねや!!
傭兵:糞…ッ。くそォ、ファック! ファック!!
ベルナドット:それにな、まだ死ぬと決まったワケじゃねえよ。俺達ゃ、ディフェンスだ。
ホレ!! さっさとバリを組むんだよ!!
オフェンスが今、点数をひっくり返すさ。
■
ゾーリン:燃やせ燃やせ!! 皆殺しだ! 皆殺しだ!!
これがヘルシングの力だってェ!? これが王立国教騎士団だってェ!?
笑わせてくれるねェ!!
N:傭兵の一人がゾーリンへと狙いを定め、銃を撃つ。
だが、付き添っていた吸血鬼がゾーリンを守る。
ゾーリン:雑魚が!! うっとおしいんだよォ!!
N:ゾーリンが 掌 を壁に叩きつける。腕に描かれた奇怪な模様が、壁へと伝っていく。
幻覚世界が傭兵を包む。そこには、死んだ筈の愛娘の姿があった。
触れる事ができる。声を聞く事ができる。彼は言う。「これも幻だというのか」
ゾーリン:ウッソでえーす!!
N:傭兵は、背後から真っ二つに切り裂かれた。
ゾーリン:全部ウソ♪ 全くのウソ♪ アホは死ななきゃなおらねぇ!!
■
N:一方セラスは「ハルコンネンU」を乱射し、吸血鬼達を撃退していた。
惨殺された傭兵の姿を、険しい表情で見つめ呟く。
★セラス23:やっ…やっつけますからッ。あいつらッ…あいつらッ…、
あいつら全員、やっつけますからッ!!
■
メディコ
ベルナドット:クソッ!! バリケードがッ!! 衛生兵!! こっちだ!!
副長:そっちのイスを持ってこい!! 早く!!
塞げッ早くッ!! バリケードだッ早くしろ!!
傭兵:もう…もう駄目だ。
ベルナドット:黙れ!! 馬鹿野郎!!
傭兵:降伏したって全員なぶり殺されるぞ!! 相手は化物だ!! 喰われちまう!!
ベルナドット:残弾を再分配しろ。
副長:隊長!! こいつを!! こいつでカンバンです。法儀済銀弾が尽きました。
傭兵:隊長ッ、もう嫌だ。死にたくないッ。
ベルナドット:うるっせえな。俺だって本当は死にたかねえよッ。
副長:まるであの時と一緒です。ウガンダ・ジャン・グ・ワイデ!! 飛行場右翼陣地!!
あの時は救援が間に合いましたが、今回は…クソ、駄目ですか。
ベルナドット:馬鹿抜かせ副長!! あいつは来る!!
必ずやって来る!! そういう女だ!!
N:ロケット砲が、バリケードを吹き飛ばす。
ベルナドット:畜生ッ、ロケットかッ。くそッ、連中まだあんな物を…ぐッ!!
全員!! 報告しろ!! 副長!! 被害報告を…副長!! 副…ッ!!
N:副長の下半身は、ロケットの爆撃で吹き飛ばされていた。
ベルナドット:副長!! おい!! 副長!!
副長:もう疲れました…先に休んでいいですか。
ベルナドット:ああ。ゆっくり休め。……じゃあな。
SS曹長:命中です。突入しますか?
ゾーリン:いやまだだ。もう一発ぶちこめ。
パンツァーファウスト
SS曹長: ロケット はあと一本しかありません。虎の子ですよ。
ゾーリン:構わんやれ。吹き飛ばしてやれ。哀れな連中を木端微塵にしろ!!
ヤボール
SS曹長:了解。
ゾーリン:殺れィ!!
N:その時、ロケットを構えていた吸血鬼が吹き飛んだ。
その先には「ハルコンネンU」を構えたセラスが立っていた。
ダイレクトカノンサポート
ゾーリン:直接火砲支援…ッ!! …ッ、貴様は!!
傭兵:隊長…ッ。
ベルナドット:ああ。来たぜ、約束通り。本当に来たぜあの娘、
たった一人でバケモノ共を皆殺しにして。ああ畜生、くそッ。
いい女だ、あいつ本当に。畜生め…へッ。
無理矢理でもキスしちまえば良かった。へへへッ。
ゾーリン:セラス。セラス・ヴィクトリア!!
★セラス24:残っているのはあんただけよ!
ゾーリン:それがァ…どうしたァァ!!
N:ゾーリンが掌を床に叩きつける。幻覚世界がセラスを包んだ。
まど
★セラス25:幻覚ッ、幻覚だ。嘘だ! 幻覚だ! 幻わされるなッ!! まぼろしなんだ!!
N:ゾーリンがセラスの暗き過去を暴く。孤児院で問題児と呼ばれたセラス。
頑なに父と同じ警察官への道を選んだセラス。ひとつの事件が、彼女の行く道を決めた。
ゾーリン:もっと奥へ!! もっと、もっと奥へ!!
N:クローゼットの中で震える幼きセラス。外からは、下卑た男達の話し声が聞こえる。
セラスがそっと外の様子を窺うと、そこには銃殺された両親の姿があった。
セラスはクローゼットを飛び出すと、床に落ちていた食事用のフォークを掴み、
男の眼に突き刺す。男は悲鳴をあげセラスを振りほどくと、銃の引き金を引いた。
弾丸はセラスの腹部を撃ち抜き、部屋中が血で染まる。
ぼやけて映るセラスの視界の先には、母を死姦する男の姿があった。
★セラス26:あ、あ、あ、あ、あ、
ゾーリン:グッモーニン。セラス嬢ちゃん!! 良い夢見れたかしらん!?
N:ゾーリンの大鎌が、セラスの左腕を斬り落とし、
ゾーリン:もう一つ!! もうひとぉつ!!
N:腹を貫く。床に倒れるセラス。
ゾーリン:あっはあははッ!! 頑丈な女だねェ!!
★セラス27:ああうう…、
ゾーリン:ははは!! おまえは!! 虫か! 蛙か!!
N:更にゾーリンはセラスの髪を掴み持ち上げ、両の目を切り裂いた。
★セラス28:ああああ!!
ゾーリン:なんだお前。話に聞いてたのとは全然違うねェ。ゴミめ!! だらしのない女だ!!
さあて、そろそろ死んでもらっちゃおうかなぁ。
その首をバチッ切り取る としようかね!! 死ねええええ!!
ベルナドット:うるせえぞブス。
ゾーリン:な…!?
N:ゾーリンの背後に回っていたベルナドットが、至近距離で銃を乱射した。
吹き飛ぶゾーリン。その隙にセラスを担ぎ撤退を計る。傭兵が煙幕弾でサポートする。
傭兵:急げ!! 隊長!! こっちだ!! 早く!! 隊長!!
ベルナドット:あいよォッ!!
★セラス29:ベ…ルナ…隊…ちょ…、
ベルナドット:しゃべるな!!
N:突如、ベルナドットの両足を吸血鬼が銃で撃ち抜いた。
ベルナドット:ぐっ…ッ、くそおおおッ!!
★セラス30:ベルナドットさんッ…逃ッ、逃げてッ。もうッ…いッ、いいですッ。ベルナドットさんッ、
ベルナドット:うるせえ、って…言ってんだよ!!
傭兵:畜生!! 畜生!! くそうッ!!
N:傭兵が吸血鬼を撃ち倒しベルナドットに駆け寄った瞬間、
ベルナドットの体を、ゾーリンが投げた大鎌が貫いた。
ベルナドット:か…うお…く…ガハッ!!
N:ベルナドットは体勢を大きく崩し、セラスが放り出される。
よろよろと壁に背をつき、壁を血に染めながら床に座り込む。
ゴミ
ゾーリン:人間が!! ゴミクズが気張りやがって!!
★セラス31:ベルナドットさんッ!! ベルナドットさんッ!!
ベルナドット:バカッ…バカッやろ。へ…へへ…助けに来たお前が、
俺、俺に…ッ、助け、られちゃあ、せ…世話がねえ…な。
N:そう言いながら、煙草に火を点けるベルナドット。
床を這いながら、セラスは手探りでベルナドットの姿を見つける。
★セラス32:ベ…ッ、ベルナドット、ベルナドットさん!!
N:ベルナドットは煙草を口から離し、セラスを引き寄せると、
セラスの唇に、自らの唇を重ねた。
ベルナドット:…けっははっ…がはッ! ゴホッ!! ボサッとしてるからだ。
けへへッ、やっと唇、うばってやったぞ…ッ。
なあ、泣くなようセラス。お前はしぶとい女じゃん。
俺を喰えよう。俺を喰って、一緒にやっつけようぜ、セラス。
N:ベルナドットの体が壁を滑り、ゆっくりと床に倒れていく。
ベルナドットM:バカ。泣くなって言ってんじゃねーか。お前 目玉えぐられてんだぞ。
バカだなぁ。腕だってちぎられてんだ。ボロボロじゃん。
バカな女だなぁ。ああ畜生…畜生め。いい女だな、こいつ。
こいつ守って死ぬんなら…べつにいい。
★セラス33:ああああああ!!!! うわああああああ!!!!
N:煙草の灯と共に今、ベルナドットの命の灯が消えた。
傭兵:隊長ッ…そんな…。くそッ、くそッ!!
ゾーリン:泣かせるじゃあないか、ええ!?
やかまし
ゴミの様な虫けらの分際で、五月蝿く飛び回るから…そうなる!!
さあて、よくもまあ やりもやってくれたねえ!! さあてどうしてくれようかねえ!!
うるさい小虫は、平手で潰してしまいましょう。
傭兵:うあ、く…ッ、くそ。くそうッ!!
ゾーリン:虫の人生は、これにて!! 終ゥー!! 了ゥー!!
N:ゾーリンが再び、右手を床に叩きつけた。幻覚世界が辺りを包む。
傭兵:う、ああ、あ、またかッ!! またか畜生!!
★セラス34:虫といったな。この人を…虫けらといったな!!
許さない…! 許さない! 許さない!!
N:ベルナドットを抱いたセラスは、ベルナドットの首筋に噛み付き血を飲んだ。
まなこ
黒き闇が、セラスの左手から生み出され漂う。そして、失った筈の眼が見開かれた。
次の瞬間、ゾーリンの幻覚世界が音を立てて崩壊していった。
ゆ
★セラス35:征きます。ベルナドット隊長。征きます、征きます!
一緒に征きます!! 一緒にあいつらを、あいつらをやっつけます!!
ヴァンパイアたち
ゾーリンM:なんだ!? なんだこれは。兵士共が怯えている。あの 吸血鬼兵隊 が。
戦場を跋扈し、砲火を疾駆した、百戦錬磨の武装親衛隊が。
眼前の一人の少女に怯えている。満身創痍の一人の少女に怯えている!!
こいつは一体何だ!? やばい…やばい!!
何だか良く判らんが、こいつは…やば…!
N:瞬く間に眼前に迫ったセラスの手が、ゾーリンの顔を掴み 床に叩き付けた。
ゾーリン:おご…も…!! ごおおお!! ぶお…ッ、ぶッ、お…ぼッ、ぼおッ、
N:ゾーリンが左手でセラスを殴りつける。しかし、その手をセラスの牙が喰いちぎり吐き捨てた。
ゾーリン:ぎッ!! いいいいいッ!!
いってき いっぺん
★セラス36:お前の血など 一滴 一片 一マイクロリットルたりと 飲んでやるもんか!!
やるもんか!! やるもんか!!
ゾーリン:あ…お…おおおおおああ!!
N:ゾーリンは残った右手でセラスの顔を掴むと、更に幻覚世界を構築しようとする。だが、
ゾーリン:ひゃあは、ひゃはははは!! 奥へッ、奥へッ、奥へッ、
もっと奥へッ!! もっと奥へッ!! もっと奥へッ!!
…な…何だ。誰だこれは。何だこれは!!
違う!! こいつはこいつじゃない。「記憶」が…ッ、「心」が…ッ、
混ざり合って…何だ!! 誰だ!! 誰の心だ!?
あいつか!! 私が虫けらと呼んだ、あの男か!!
シュレディンガー:血液とは魂の通貨、意志の銀板。血を吸う事、
血を与える事とは、こういう事。お元気? まだ生きてる?
ゾーリン:シュレディンガー!!
シュレディンガー:そんなに驚かないでよ。僕は【どこにでもいるし、どこにもいない】
ゾーリン。少佐からの伝言を、お伝えしまーす。
「抜け駆け先討ちは 兵 の華」「ああ、やっぱり」「ならばそして」
「命令を反し、あたら兵を失った無能な部下を処断するのも、
また指揮者の華」だってさー。本当ならとっくに、
もうボーボー燃えカスになってる所なんだけど、
ドク
少佐も博士も、今 物凄い面白いおもちゃを手に入れて、
そっちに夢中でお前に構ってるヒマ無いんだってさー。
この怪物はもう、セラス・ヴィクトリアであってセラス・ヴィクトリアじゃない。
お前の処刑は、この吸血鬼がやってくれる!! じゃあね♪
N:ゾーリンの幻覚世界が消え去る。セラスはゾーリンの頭を壁に打ち付け、
そのまま壁に沿って走り出した。ゾーリンの頭部が見る見るうちに削ぎ落ちて行く。
★セラス37:消えろ!! わたしの前から!! わたしの心から!!
傭兵:これが…これが…ッ。あの、嬢ちゃんかよ…ッ。
N:絶命したゾーリンの体から手を離すと同時に、ゾーリンの体が炎に包まれる。
セラスはゆっくりとベルナドットの亡骸に歩み寄り、しばし見つめた後 口を開いた。
★セラス38:…いってきます。
傭兵:…いってきます…って…ッ。ど、ど、どこに!?
★セラス39:約束したんです。隊長と。あいつらをやっちまおう、って。
だから、あいつらを「やっつけちまいに」征ってきます。
傭兵:あ…、
傭兵M:ああ、そっか。隊長、あんたはここでおっ死んだ。ここで。
でも、あんたは「そこにも」いるのか。
傭兵:待ってくれ!!
N:傭兵はセラスに向け敬礼をする。セラスは笑顔で頷くと、窓から飛び出し空に舞った。
左腕から漂う黒き闇が羽根を形作り、セラスを夜の空へと誘って行く。
夜が白み始めた…夜が明ける。セラスはもはや陽の光すら意に介さず、
引き絞られた矢弓の様に飛んでいく。死都に向かって、暁の出撃!!
■
少佐:これだ…!! これが見たかった!! ああ…凄く良い。
シュレディンガー:ゾーリン死んじゃったよ、少佐。虫みたいに。
ほろび
少佐:ははは、やっぱりな。馬鹿な小娘だ。敗北が始まったのだ。心が躍るな。
ひど どいつ こいつ
シュレディンガー:非道い人だ、あなたは。何奴 も 此奴も連れ回して、
一人残らず地獄に向かって進撃させる気だ。
少佐:戦争とはそれだ。地獄はここだ。私は無限に奪い、無限に奪われるのだ。
無限に亡ぼし、無限に亡ぼされるのだ。そのために私は、
野心の昼と 諦観 の夜を越え、今ここに立っている。
見ろ。敗北が来るぞ。勝利と共に。